母、星になる ~余命宣告~

突然ガンの余命宣告をされた母と命の選択を迫られた私たちの家族の記録です。

母からの電話

DAY03AM 2022年7日18日 月曜日

固定電話の留守電

早朝に母から電話があった。私の携帯にかけたが出ないので、母の部屋にある固定電話にも5時頃に着信があり、留守番メッセージが入っていた。私は数日間の不眠のせいで明け方から眠ってしまっていた。

 

7時前に母からの入電に気づき、電話をかけた。体中が痛くて辛いから来てほしいと言う。私は再び入院している病院に電話し、整形外科に取り次いでもらい、主治医からの許可が出たので妹にLINEでメッセージを送った。

 

「朝5時に電話してきてるからよっぽど苦しいみたい。汗かいてるから着替えを持って行ってくる」

 

特別な事情があるとはいえ、何度も数名で面会する訳にも行かず、妹も母の携帯電話に付けるイヤホンマイクを持って行きたいというので、私たちは昼前に母の病室へ行くことが出来た。

 

母は昨日より衰弱していて、背中全体の激痛でとても辛そうだった。それでも母は娘たちの前でその激痛に耐えて、努めて普通に振舞おうとしていた。

 

病室の窓から見える緑

 

昨日面会を終えて病室を出る際に、母が病室の空気が悪いというので少し窓を開けて帰ったのだが、夜中にかえって病室が蒸し暑くなってしまい、看護師さんに窓は閉めていた方が空調で換気されて涼しいと教えてもらったそうだ。


私は妹が母の携帯電話にイヤホンマイクを付けて、説明したり話している間に病室を出てタオルを濡らしてきて、母の身体を拭いた。髪はまだサラサラしていたが、2日間も着替えていないというので看護師さんに後ほど着替えをお願いした。

 

妹が母に「今日○○○が会いに来るよ」と姪が来ることを伝えた時、母は返事をせず、戸惑っているように見えた。こんなにも弱っている姿を孫に見せたくなかったのだろう。

 

母はまた「走り回りたい」「家に帰りたい」と言った。

 

あと、食事はほとんど摂れずで歯磨きしていなかったため「口の中が気持ち悪い」と言うので薄めた洗口液で濡らしたガーゼで口の中をキレイにしようとした。すると、今日の担当の看護師が部屋に入ってきて退室を促すので、口腔ケアをお願いした。

 

母は腰椎を圧迫骨折しているので、あまり自分で身体を動かしてほしくない。母にも

「無理してなんでも自分でしようせずに看護師さんにお願いしてや」

と伝えると
自分のことは自分でしたい母がその看護師に遠慮がちに

「じゃあ、やってもらおうかな」

と言うと、その看護師は

「自分でやらないと出来なくなるよ」

と言うので私と妹は唖然とした。自分で動けない患者に向かってそんな心ない言葉を発する看護師がいるのだ。

 

その後、他の看護師からも母に伝えることがあれば、(今のうちに)伝えるようにと促された。母は私の両手を握り大きく目を見開いて、私の姿をその目に焼き付けようとした。そして、幼い子供のように少し甘えて見せた。

 

私と妹は母を不安がらせたくない一心で、この時も普通に振舞い、

「何か必要なものがあったら電話してよ」
「また元気になったら遊びに行こうな」

 

と言うより他仕方なかった。

 

私と妹は病室を出た後に、何とも言えない不安で不快な気持ちになった。自身も医療機関で勤める妹は「あの看護師は医療機関で勤めるべきじゃない」と憤っていた。私も呆れて、やはり病室に母を一人にはできないと言った。

 

暴れたり喚き散らす患者もいるので、このコロナ禍で看護師たちの抱えるストレスは私たちの想像以上だろう。しかし、いつ命が消えてしまうかわからない身体の不自由な患者とその家族を前にして、患者の尊厳を奪うような行為は決して許されるべきではない。

 

コロナ禍の医療現場の逼迫によって救われるはずの命が救われないことや、現場の医師・看護師の懸命な尽力が少しでも伝わればとブログに書くことにした。しかし、その陰で人格が崩壊してしまった、或いは元から患者の人権など考える人間性を持っていない看護師が僅かにいることも事実だ。

 

私はコロナ禍の医療現場で母と同じような辛い思いをする患者や私たちのような家族が減ってほしいと願ってブログを書いています。